ウサギノネドコ図鑑4 フジツボ

多種多様なフジツボ (c)倉谷うらら
多種多様なフジツボ (c)倉谷うらら

フジツボは磯で必ずといっていいほど見かける身近な生き物ですが、
その実態はなかなか知られていません…。
とても奥深くて造形的な魅力にもあふれたフジツボについて、
ほんの少しご紹介させてください。

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知って役立つ(ときがくる)フジツボの生態
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まずはフジツボの不思議な生態を少し見てみましょう。

その1. フジツボは甲殻類の仲間
アカフジツボの断面図フィギュア。
アカフジツボの断面図フィギュア。
石灰質の殻の中に逆立ちしたエビのような体が収まっています。

「貝の仲間」と誤解されがちなフジツボ。
実は、エビやカニと同じ甲殻類の仲間なのです!
岩場に貼り付いて動かないフジツボが甲殻類とは信じられませんが、
堅い殻の中でエビ・カニと同じように脱皮を繰り返して成長していきます。

世界最大種のフジツボ「ピコロコ」
ウサギノネドコで展示中の世界最大種のフジツボ「ピコロコ」。
南米では食用にされています。

フジツボは地域によって食用にもされていて、
日本ではカメノテやミネフジツボが食べられています。
その味はやはり、エビやカニに近い味がするそうです…。

その2. 優雅なお食事風景

アカフジツボの採餌 (c)倉谷うらら
優雅でキュートなお食事の様子。

餌を取る姿もとてもユニークです。
フジツボの仲間は蔓脚(まんきゃく)と呼ばれる
羽毛のような足を持っています。
その足を堅い殻のすき間から
「オイデオイデ」の動きで出し入れして、
海水中のプランクトンを集めて食べています。
貴婦人の持つ羽根扇のような蔓脚の動きが
なんとも美しくて…癒やされます…。

その3. 分布範囲は地球規模
ウサギノネドコで展示中のオニフジツボ(中央)
ウサギノネドコで展示中のオニフジツボ(中央)。
クジラの皮膚にだけ付着するフジツボです。

海岸で目にすることの多いフジツボですが、
その生息場所は実に多種多様です。
深さは海上から深海1万メートルまで、
果ては北極・南極・赤道直下まで、
さらにはカメやクジラやクラゲなど、特定の生き物にしか
付着しないものまでいるというから驚きです!

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ダーウィンとフジツボ
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フジツボはあのチャールズ・ダーウィンとも
深ーいかかわりがあります。

ウサギノネドコで展示中の『フジツボ総説』全4巻中の2冊。
ウサギノネドコで展示中の『フジツボ総説』全4巻中の2冊。
1850年代に刊行された貴重な初版本です。

進化論で知られるチャールズ・ダーウィンは、
8年もの間、自宅にこもってフジツボの研究に没頭していました。
ダーウィンといえばガラパゴス諸島での
フィンチやゾウガメの研究が思い浮かびますが、
フジツボ学の第一人者でもあるのです。
ダーウィンは世界中から集めた1万ものフジツボを調べあげ、
計4巻1,200ページを越す大著『フジツボ総説』を出版しました。
その間、国内外の研究者に手紙を出しては
「わたしの愛しいフジツボ」について嬉しそうに報告しています。
また、ダーウィンは友人に宛てた手紙の中で
「フジツボこそ自然淘汰に対する理解を深めてくれた」
と告白しています。

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いかがでしょう?
フジツボの魅力の一端を感じていただけたでしょうか?
もっともっとご紹介したいことはあるのですが、
ここでは語りつくせない奥深さです!

ただいまウサギノネドコ京都店で開催中の
「ダーウィンとフジツボ展」では
展示だけでなく、他にはないフジツボの標本や、
グッズ、書籍、博物画もお買い求めいただけます。
またカフェでは、ダーウィン夫人が残したレシピ帳から
・林檎のプディング
・ジンジャーブレッド
を再現してご提供中です。

展示をお楽しみいただいたあとは、海辺へ出かけるたびに
じっとフジツボを観察したくなってしまいますよ。
皆さまのお越しをお待ちしております!

ミセスタッフ
高橋

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「ダーウィンとフジツボ展」
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■期間  2016年2月12日(金)〜5月8日(日)
■定休日 木曜日
■時間  11:00〜18:30
■場所  ウサギノネドコ京都店 ミセ・カフェ
     (京都市中京区西ノ京南原町37)
■地図  http://usaginonedoko.net/kyoto/access/
■協力(敬称略)
    倉谷うらら(海洋生物研究家)
    海洋生態研究所
    日本付着生物学会
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ウサギノネドコ図鑑3 カイロウドウケツ

和名:カイロウドウケツ
英名:Venus’ Flower Basket
学名:Euplectella aspergillum

結婚式の贈り物にお悩みの方、こちらのカイロウドウケツがイチ押しでございます。
あまり聞かないかもしれませんが、この見慣れない物体が丁重に桐箱に入れられて贈られることがあるらしいです。

写真 2016-02-01 16 00 45

そもそもこれはなんなのかと申しますと、海綿動物の一種、なんと生き物です。
この動物は深海に生息していて、海水中の有機物の微粒子や微生物を濾しとって栄養としています。ですので生きている時は中に内臓が詰まっているわけではなく、この状態で生きているのです。

さてここに、この生き物「カイロウドウケツ」という名前の由来にもなっている縁起のよいエピソードがあります。
それはこの中に住まうある種のエビのおはなし・・・

写真 2016-02-01 16 01 54
上部から中を覗いた写真。

深い深い海の底。マリンスノーの降り積もる静かなある日のことでした。
生まれたばかりのエビが海底を漂っていたところ、どうくつのような空間に入り込んでしまいました。
「ここいいね、住んじゃおうかな」エビはいいました。
そこにもう一匹エビが漂ってきました。
「シンプルイズベスト、つまりレスイズモアだね。」
もう一匹のエビはいいました。
そうしているうちに時間は経ち、2匹は大きくなってしまいそこから出られなくなってしまいました。
でもこの中にいた方が魚に食べられる心配もないので、ずっとここに居ることにしました。
でも子供はどうするのでしょうか?
「じゃあ私が女の子になるね。」
「では私はメンズにコミットしよう。」
と、まだ大人になる前の2匹はお互いに相談し、お母さんとお父さんになって
死ぬまで一緒に居ることを誓ったのでした。
おしまい。

ということですが要約すると、ドウケツエビというエビが幼生の時にカイロウドウケツの網目から中に入り込みそこで成長して出られなくなり、その中で一生を過ごすということです。またこのエビは性が未分化の段階で住み着くので、中で上手に分化して繁栄していくようです。
このようにまず、中に共生するエビに中国の詩篇「詩経」にある「同穴(ドウケツ)」【死んだのち同じ墓に入る】があてがわれて「ドウケツエビ」となり、そこに同じく詩経の「偕老(カイロウ)」【共に年をとる】という言葉があわさって、現在の「カイロウドウケツ」となったようです。
(海綿に「カイロウドウケツ」という名前がついてはいますが、実際に「偕老同穴」なのは中のエビということです。)
以上がカイロウドウケツの名前や一生をそいとげる夫婦円満の縁起物の由来となっているエピソードですが、おそらく自然界にロマンスはないと思われますのでご了承ください。悪しからず。

写真 2016-02-01 16 02 53
カイロウドウケツの上部。

ところで、この白い物体は一体何で出来ているのでしょうか。
答えはガラス繊維で出来た骨格です。内臓のように発達した器官を持たない生き物ですが、骨格は実に繊細で美しい造形をしています。

写真 2016-02-01 16 05 40
このフワフワした部分で海底の砂地に定着する。

全体的に一見やわらかな質感と色味ですが、先述の通りガラス繊維(ケイ酸を主成分とした繊維)でできているので意外にしっかりしています。
よくみると格子を基盤にして、その隙間を細い繊維が走っているのがわかります。おそらくは単純に海中の養分を効率良く濾しとるために発達した形なのでしょう。

写真 2016-02-01 16 05 12

たとえこれを人間がガラスで作ったとして、筆舌に尽くしがたいこの骨格の美しさを表現できるのかはなはだ疑問です。

自然界のありふれた素材を用いて作られた構造。人目につかない深海で、美しく在ろうという意図など微塵も存在していないのにもかかわらず滲みでる美しさ。まさしく「自然の造形美」を感じさせてくれる生き物です。

ミセスタッフ
aoyama

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