ウサギノネドコ図鑑3 カイロウドウケツ

和名:カイロウドウケツ
英名:Venus’ Flower Basket
学名:Euplectella aspergillum

結婚式の贈り物にお悩みの方、こちらのカイロウドウケツがイチ押しでございます。
あまり聞かないかもしれませんが、この見慣れない物体が丁重に桐箱に入れられて贈られることがあるらしいです。

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そもそもこれはなんなのかと申しますと、海綿動物の一種、なんと生き物です。
この動物は深海に生息していて、海水中の有機物の微粒子や微生物を濾しとって栄養としています。ですので生きている時は中に内臓が詰まっているわけではなく、この状態で生きているのです。

さてここに、この生き物「カイロウドウケツ」という名前の由来にもなっている縁起のよいエピソードがあります。
それはこの中に住まうある種のエビのおはなし・・・

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上部から中を覗いた写真。

深い深い海の底。マリンスノーの降り積もる静かなある日のことでした。
生まれたばかりのエビが海底を漂っていたところ、どうくつのような空間に入り込んでしまいました。
「ここいいね、住んじゃおうかな」エビはいいました。
そこにもう一匹エビが漂ってきました。
「シンプルイズベスト、つまりレスイズモアだね。」
もう一匹のエビはいいました。
そうしているうちに時間は経ち、2匹は大きくなってしまいそこから出られなくなってしまいました。
でもこの中にいた方が魚に食べられる心配もないので、ずっとここに居ることにしました。
でも子供はどうするのでしょうか?
「じゃあ私が女の子になるね。」
「では私はメンズにコミットしよう。」
と、まだ大人になる前の2匹はお互いに相談し、お母さんとお父さんになって
死ぬまで一緒に居ることを誓ったのでした。
おしまい。

ということですが要約すると、ドウケツエビというエビが幼生の時にカイロウドウケツの網目から中に入り込みそこで成長して出られなくなり、その中で一生を過ごすということです。またこのエビは性が未分化の段階で住み着くので、中で上手に分化して繁栄していくようです。
このようにまず、中に共生するエビに中国の詩篇「詩経」にある「同穴(ドウケツ)」【死んだのち同じ墓に入る】があてがわれて「ドウケツエビ」となり、そこに同じく詩経の「偕老(カイロウ)」【共に年をとる】という言葉があわさって、現在の「カイロウドウケツ」となったようです。
(海綿に「カイロウドウケツ」という名前がついてはいますが、実際に「偕老同穴」なのは中のエビということです。)
以上がカイロウドウケツの名前や一生をそいとげる夫婦円満の縁起物の由来となっているエピソードですが、おそらく自然界にロマンスはないと思われますのでご了承ください。悪しからず。

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カイロウドウケツの上部。

ところで、この白い物体は一体何で出来ているのでしょうか。
答えはガラス繊維で出来た骨格です。内臓のように発達した器官を持たない生き物ですが、骨格は実に繊細で美しい造形をしています。

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このフワフワした部分で海底の砂地に定着する。

全体的に一見やわらかな質感と色味ですが、先述の通りガラス繊維(ケイ酸を主成分とした繊維)でできているので意外にしっかりしています。
よくみると格子を基盤にして、その隙間を細い繊維が走っているのがわかります。おそらくは単純に海中の養分を効率良く濾しとるために発達した形なのでしょう。

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たとえこれを人間がガラスで作ったとして、筆舌に尽くしがたいこの骨格の美しさを表現できるのかはなはだ疑問です。

自然界のありふれた素材を用いて作られた構造。人目につかない深海で、美しく在ろうという意図など微塵も存在していないのにもかかわらず滲みでる美しさ。まさしく「自然の造形美」を感じさせてくれる生き物です。

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